お鉢巡り



 富士山の山頂には、直径約780m(剣ヶ峰〜久須志神社間)もある大きな噴火口があります。噴火口の外周には道があって、一周することができます。噴火口の周りを一周することを「お鉢巡り(おはちめぐり)」と呼んでいます。お鉢巡りの所要時間は80〜90分程度かかります。距離はおよそ3kmあります。

時間的に余裕があって、山頂のお天気がよい場合には、ぜひお鉢巡りをしてみてください。
強風時や悪天候の場合は危険ですので、お鉢巡りはなさらないでください。

噴火口の周りを一周しながら、景観を楽しむだけでも十分ですが、せっかく一周するのですから是非これはご覧になっていただきたいと思うところをご紹介いたします。

時計回りに回る場合が一般的のようですが、もちろん反時計回りに回ることは自由です。
時計回りの場合、剣ヶ峰(3776m)の手前の「馬の背」と呼ばれる急斜面を登らなければなりません。
反時計回りの場合は、この「馬の背」を下ることになり登らずに済むというメリットがあります。

スタート地点も自由なのですが、ここでは久須志神社から時計回りでご説明いたします。

富士山頂上
富士宮口山頂にある山頂の案内図

久須志岳(薬師ヶ岳) 3,740 m 富士山の頂上には八つの峰があります。
上記の案内図はとてもわかりやすいのですが、
峰の順番に間違いがあります。

吉田口、河口湖口、須走口の山頂を
基点に時計回りで並べると峰は左記の
ような順番になります。
朝日岳(大日岳) 3,750 m
伊豆ヶ岳(阿弥陀岳) 3,750 m
成就ヶ岳(勢至ヶ岳) 3,733 m
駒ヶ岳(浅間ヶ岳) 3,715 m
三島岳(文殊ヶ岳) 3,740 m
剣ヶ峰 3,776 m
白山岳(釈迦ヶ岳) 3,756 m
峰の名前で( )内は旧名です。案内図では、駒ヶ岳と浅間ヶ岳を別々に
扱っていますが、新名と旧名の違いで同じ山です。また、案内図には、
伊豆ヶ岳(阿弥陀岳)が描かれておりません。
吉田口、河口湖口、須走口の頂上を時計回りに出発すると、
最初の峰は成就ヶ岳ではなくて朝日岳(大日岳)になります。
参考:富士山頂の峰々
 http://www.fjsan.net/fj070101fjsantyou.htm

そこで、位置関係を把握していただくために、次の図を併せて参考にご覧いただきたいと思います。
この図も正確とは言えませんが、峰の位置関係は正しくなっています。

山頂の概略図(正確なものではありません)


 久須志神社


 吉田口、河口湖口、須走口の頂上には、久須志神社(くすしじんじゃ)があります。富士山の頂上には「浅間大社奥宮(せんげんたいしゃおくみや)」と「久須志神社」の二つの神社がありますが、そのうちのひとつです。「久須志神社」は「浅間大社奥宮」の末社になります。大名牟遅命(おおなむちのみこと)、少彦名命(すくなひこなのみこと)が祀られています。

神社でお守り、お札(おふだ)、御朱印などをいただきたい場合は、7月11日〜8月末日の間に登山をする必要があります。この期間を外すと、神社は開いていないようです。

お守り、お札、杖にいただく御朱印(300円)は、富士宮口頂上にある浅間大社奥宮と同じです。金明水の初穂料は500円です。

数え年で70歳以上の方は、神社に備え付けの名簿に記帳すると、記念品がいただけるようです。また、後日「高齢登拝者名簿」が郵送で届くようです。

御朱印帳にいただく御朱印の場合は、久須志神社と浅間大社奥宮では違いがあるかもしれません。

 ここには「富士山頂上浅間大社奥宮」の石塔があり、吉田口、河口湖口、須走口から登ってきた多くの登山客は、ここで記念写真を撮ります。剣ヶ峰(3776m地点)迄、時間的に行くことができない場合でも、この場所での写真が十分に富士登山の記念になります。

近くには、山小屋が4軒(神社から数えて山口屋支店、扇屋、東京屋、山口屋本店の順)あります。山小屋オリジナルの記念品なども販売されているようです。自動販売機も設置されており、ペットボトル飲料や缶コーヒーを購入することもできます。

トイレの設備もありますので、ここからお鉢巡りを始める方は、先にトイレにお立ち寄りになることをお勧めします。

 ・頂上部民間共同トイレ(吉田口・河口湖口・須走口)
 ・山口屋のトイレ(宿泊客専用)(吉田口・河口湖口・須走口)


 下山道出発点

 「須走口下山道」と書かれた石塔があります。須走口だけではなく、吉田口、河口湖口の下山道出発地点でもあります。


 朝日岳(大日岳3750m)

 写真は、朝日岳(大日岳:3,750m)から、河口湖口頂上方面を眺めたものです。富士山の頂上には、噴火口の周りに八つの峰があります。朝日岳は、その中のひとつになります。ご来光を迎える場所として人気が高いところです。

ここの山頂には、鳥居があるのですが登山客が杖から外した鈴やリボンなどが、たくさん吊り下げられていました。
「朝日岳」の名前よりも、旧名の「大日岳」のほうが有名のようです。



 虎

 伊豆ヶ岳(阿弥陀岳)、成就ヶ岳(勢至ヶ岳)の横を歩いているときは、足元に注意をしながら麓の景観を楽しむことが多いのですが、大内院(噴火口)がよく見える場所に出ることがあります。そんな時に、剣ヶ峰の方向を眺めると見えるのが「虎岩」と呼ばれている岩です。虎の顔に見えますでしょうか?

噴火口は深いところで約237mもあります。気象庁の職員の方で、転落死し殉職をされた方もいらっしゃいます。危険ですので、近づき過ぎないように十分注意してください。



 NTT富士山頂分室

 東安河原(ひがしやすのかわら)と呼ばれる場所に出ますと、向かって右側に見える建物が「NTT富士山頂分室」。以前は公衆電話が設置され、記念テレカの購入もできましたが2001年に無人化されています。

左側の建物は、「逓信省富士無線中継所」として使われていたものです。
昭和初期、ここには中央気象台(現在の気象庁)・佐藤順一氏の「佐藤小屋」がありました。その後、昭和7年(1932)に「中央気象台臨時富士山頂観測所」が建設されました。昭和初期は、剣ヶ峰ではなく、ここで気象観測をしていたのです。富士山測候所として剣ヶ峰に移転した後は、富士無線中継所として使われていました。
このように、気象観測上歴史のある場所なのですが、建物は立ち入り禁止になっています。
建物の側には二つの石碑があります。右は、「富士無線中継所記念碑」。左は、「逓信技士・栗山國雄君殉職碑」。


 銀明水

 霊水・銀明水を採掘する場所です。昭和の初期までは登山者にふるまわれていたそうです。浅間大社奥宮で初穂料500円で分けていただけます。
煮沸殺菌していない雪解水ですので、飲めません。ご自宅の神棚にお供えしてください。どうしても飲みたい場合は、煮沸してからにしてください。

ここは、御殿場口の頂上で、近くには「頂上銀明館」という山小屋もあります。ですが、今までに営業しているところを見たことはありません。休業中なのかもしれません。

吉田口、河口湖口、須走口の頂上から、この御殿場口の頂上までの所要時間は、およそ30分です。
ここから、駒ケ岳を通り、富士宮口の頂上へは2〜3分で行くことができます。


 浅間大社奥宮

 富士宮口の頂上には、「浅間大社奥宮(せんげんたいしゃおくみや)」があります。お隣には、「富士山頂郵便局」があります。

奥宮に祭られている神
木花之佐久夜毘売命(このはなさくやひめのみこと:木花咲耶姫とも表記される)
大山祇神(おおやまづみのかみ:木花咲耶姫の父)
瓊々杵尊(ににぎのみこと:木花咲耶姫の夫)

銀明水の初穂料は500円です。
お守り、お札、杖にいただく御朱印(300円)は、久須志神社と同じです。
御朱印帳にいただく御朱印の場合は、久須志神社と浅間大社奥宮では違いがあるかもしれません。
数え年で70歳以上の方は、神社に備え付けの名簿に記帳すると、記念品がいただけるようです。
これは、久須志神社と同様です。

久須志神社は、早い時間から開いているようですが、奥宮の場合は午前6時にならないと開かないようです。


開いている期間

「浅間大社奥宮」...7月11日〜8月31日末日(8月31日迄とは限らないようです)
「富士山頂郵便局」...7月10日〜8月20日(午前6時から午後2時まで)

但し、残雪の状況によっては、開始が遅れる場合もあります。

「富士山頂郵便局」では、オリジナルの「登山証明書」、「富士山登頂証」が販売されています。
tozan/fuji000819-i.htm

近くには、山小屋の「頂上富士館」があります。
吉田口・河口湖口・須走口の頂上には4軒の山小屋がありますが、ここは1軒だけです。
トイレの設備もあります。

 ・「富士宮口山頂公衆トイレ」(富士宮口)
 ・「頂上富士館」のトイレ(富士宮口)


 剣ヶ峰




 富士山の頂上で一番標高の高い場所が剣ヶ峰(3776m、厳密には3775.63m )です。ここにたどり着くためには「馬の背」と呼ばれる、難所を登らなければなりません。反時計回りであれば、ここは登らずに下ることになります。ですが、下りであっても大変急勾配な坂ですので、上り下りをする際は十分に注意してください。

強風や悪天候の場合は、危険ですので剣ヶ峰には登らないようにして下さい。

「馬の背」を登りきると「富士山測候所」があります。以前は、気象庁の職員の方が常駐して気象観測を行っていましたが、現在は自動観測の方式に切り替えられています。

ここには、「日本最高峰富士山剣ヶ峰3776米」と書かれた石塔があり、訪れた人は記念写真を撮っています。混んでいる場合には、行列を作り順番待ちになるときもあります。

「二等三角点 富士山」と書かれた、国土地理院の四角形の標石があります。「二等三角点」に関する説明が書かれたもので、平成14年8月に作られたものです。
そこには、

北緯  35度21分38.261秒  東経 138度43分38.515秒  標高 3775.63メートル

と書かれています。その側に、4つの石で囲まれた石柱「二等三角点」があります。

奥へ足を運ぶと、国土地理院の「電子基準点」の構築物があります。
地震、火山活動などの調査研究が目的で、全国の約1000拠点に設置されているそうです。これは、日本で一番高い場所にある電子基準点ですね。

「電子基準点」の横には、測候所の展望台があります。誰でも展望台に上ることができますが、狭いハシゴ状の階段ですので、利用する場合は注意してください。剣ヶ峰よりもさらに高い位置にある、日本一高い場所・展望台からの眺めは正に絶景です。

早朝で、お天気のよい時は、この展望台から影富士を見ることができる場合もあります。富士山自身の影がクッキリと映し出される現象です。上記右下の写真は、平成20年7月12日(土)朝5時48分に展望台から撮影したものです。

吉田口・河口湖口・須走口の山頂から剣ヶ峰まではおよそ50分、富士宮口の山頂からはおよそ20分ほどの所要時間が必要です。


剣ヶ峰を出発し、「西安河原(にしやすのかわら)」という場所に進みますと、ここは、山頂の西側の部分になります。ここから麓の方を眺めますと、そこでも同様に影富士を見ることができる場合があります。
ただ、ここの山頂から下2220m付近までは、「大沢崩れ」と呼ばれる場所で1000年ほど前から崩壊が続いている場所ですので、敏感な方はちょっと怖い印象を受けるかもしれません。最も崩壊が激しいのは、3200〜3500m付近であるそうです。

ご参考
 国土交通省「富士砂防部」のHP http://www.fujisabo.go.jp/jigyou/sj-genjyou.html
 国土地理院「報道発表−「富士山」の火山基本図を刊行」のHP
                     http://www.gsi.go.jp/WNEW/PRESS-RELEASE/2002/0729.htm

また、大内院(噴火口)の方を眺めますと、「サブミリ波電波望遠鏡」が設置されていた跡地などを見ることができます。測候所の自動観測化に伴い、電波望遠鏡を稼動させるための安定した電力の供給が難しくなり、残念ながら平成17年(2005)夏に撤去されたのだそうです。

環境省の建物「富士山頂地区管理舎」も近くにあったのですが、こちらも撤去してしまったようです。以前は、登山シーズン中に環境省の職員の方が常駐していました。


 雷岩


 西安河原を歩いていると、遠く正面に「白山岳(はくさんだけ)」が見えてきます。さらに進むと「雷岩」と呼ばれる岩を見ることができます。この方角から、強い雷雲が来る事が多いことから、そのように命名されたそうです。


 シャカの割れ石

 「雷岩」の近くに「シャカの割れ石(釈迦の割れ石)」と呼ばれているところがあります。白山岳の斜面にある角ばった岩の部分です。白山岳は、昔は「釈迦岳」と呼ばれていたので、このように呼ばれているそうです。「白山岳の割れ石」と言うよりも、「シャカの割れ石」のほうが、言いやすいですね。
白山岳は、以前は登頂できたのですが、2008年の時点ではロープが張られ登山禁止になっていました。


 金明水


 白山岳を左に歩いていると、右側の大内院(噴火口)側に、何か構築物が見えてきます。「金明水」を採掘する場所です。「金明水」は久須志神社、「銀明水」は浅間大社奥宮でお求めいただけます。


 吉田大沢には、かつて砂走り下山道がありましたが、昭和55年(1980)8月14日の落石事故で多くの死傷者が出た為、廃止されました。


 久須志岳山頂の円形展望盤

 久須志岳の山頂には、円形の展望盤があります。
台座には、創立10周年記念 全日本山岳リレー縦走 昭和41年6〜8月 主催 国鉄山岳連盟
と書かれているそうです。

写真が無くて恐縮です....(汗。

さらに先に進めば、久須志神社に戻ります。


 補足事項・その他

●何故、噴火口の周りを一周することを「お鉢巡り」と呼ぶのでしょうか?

 ・噴火口が くぼんでいて「お鉢」のような形だから
 ・八つの峰を巡ることから「お八巡り」と言われ、それが「お鉢巡り」になった

 などの説があるようです。

 昔は、八つの峰それぞれの山頂を巡っていたようですが、危険なので現在の道は全ての峰の山頂を
 通るようにはなっていません。2008年の場合、白山岳(釈迦ヶ岳)などは、山頂への道は通行止めに
 なっていました。


●何故、八つの峰には新名と旧名の二つの呼び名があるのでしょうか?

 明治政府は徳川幕府の仏教国教化政策(神道を仏教に従属する地位に置く政策)を否定し、神道国教化政策・神仏分離政策を行いました。その結果、全国各地で仏教排斥運動が起こり、仏堂、仏像、経文などが破棄され、多くの寺院が廃止若しくは神社へ改宗を余儀なくされました(廃仏毀釈:はいぶつきしゃく)。この影響を受け、八つの峰は、仏教的な名前であったために、仏教色の無い新しい名前に改名されたのです。

 ちなみに浅間大社は元々神社であり、寺院ではありませんでしたが、末社の「薬師神社」は、名前が仏教的であり神仏分離政策に反するということで「久須志神社」に改名させられてしまいました....。
神仏分離政策の前までは、仏教と神道がうまく融合し共存していたのですが、誠に残念なことです。


バスツアーの場合は、お鉢巡りや剣ヶ峰へ向かう時間まで確保するのは難しいかもしれません。
バスツアーに参加される場合で気になるときは、事前に確認をされたほうがよいと思います。

(2008年7月23日,24日)




富士登山−はじめての富士山
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